毒親対策

投影

こうして、夫や人の言動に傷つくようになった原因がだんだんわかってきたところで、「投影」についても教わった。

私がこうしてカウンセリングを受けたり、いろいろなセラピーを受け始めたとき、それに対して「そんなに真面目に考えなくてもいいんだよ」「たまには頭を真っ白にして考えないほうがいいんだよ」と止めてくれた人たちもいた。これも「私のことを思って言ってくれるんだ」と思ったが、なんと、そう思うことができなかった。これも以前ならそう思ったことなんだろうけど、それができなくなっていたのだ。

私にはどう聞こえたかと言うと、「自分だけよくなろうなんてずるい」と聞こえてしまったのだ。

そんなことまったく思う理由のないはずの人から、そんな風に聞こえてしまった自分が本当に嫌で、どうしたらいいかわからずが出た。一生懸命よくなろうとしている自分、それを見ていて一生懸命アドバイスをしてくれている人。なのに、なんでそんな風に聞こえてしまうのか。どうしたらいいかわからなかった。よくなりたいのに、そのアドバイスも本当なのに。このときは、本当につらかった。

理由は、カウンセラーと話してわかった。カウンセラーいわく、これは「投影」だろうと。英語では、「Psychological Projection」という。

投影というのは、「自分の内側にあるものが、外に映し出されること」を言うらしい。例えば、「最近周りが攻撃的で」と言う人がいたとする。その場合は「この人は最近この人自身が攻撃的になっていて、それを中で押さえ込んでいるのかもしれない」とも考えてみるらしい。

私の場合、「女性性と男性性」のところでも書いた通り、自分の女性性を否定して消そうと攻撃していたために、外からも私の女性性を攻撃され、ハラスメントにあっていた。これも投影だ。

人間は、自分と似たようなものを持った人に対して、自分に言いたいことと同じことを言うことがある。だから、もしかしたら私に「考えるな」と言った人たちも、私の中に自分と似たようなものを感じていて、「考えるな」と自分に言い聞かせるのと同じように、私にも「考えるな」と言ってきたのだろうと。

なので、「自分だけよくなろうなんて」というのは行き過ぎでも、方向性としてはなんと私が感じた通りで合っていたのだ。

確かにその人たちも、イギリス人の配偶者や上司などとうまくいかないというところで、私と共通点があった。そして確かに、それを考えないことで対処しているようだった。だから自分に言い聞かせるように、私にも「考えるな」と言ったというのは、カウンセラーの言う通りだと思う。

でも逆に、共通点があったからこそ、わかってくれていると思っていたからこそ、よけいつらかった。同じ思いをしているからこそ、それをどうにかしたい気持ちもわかってくれると思っていたのに、私が這い出ようとしているのを応援するのではなく、止めようとした。ショックだった。

それでも、私はよくなりたかった。問題があったら、なぜそうなるかを見つけ出して、根本から解決したかった。放置なんて到底できなかった。

なぜかというと、放置できたその人たちと違って、私には帰るところがないからだ。イギリスでの生活、夫との生活、これがなくなったら、どこにも私の居場所はなくなる。死ななきゃいけなくなる。そりゃあ絶対どうにかしなければならない。どうにかできなかったら死ぬんだから。

これもまあおかしい話で、普通なら自分一人でいられるところが、私の場合は一人でいられない。夫の拒否が、即「死」を意味していた。自分一人で「安心感」を持って「存在」していられないのだ。これもあとから理由がわかってくるけれど、これがあったからこそ、私は自分のしていたことに気づき、変わらなきゃいけないと全力を尽くし始めたわけだったのだけど、これこそもっとも治療が必要な、すべての問題の原因となっているところだった。

ただ、今になって考えてみると、私の「これでいいのだろうか」という不安が、周りから「考えるな」と言われる形になって投影されたとも言える気がしている。これで私が自信を持って「今これに取り組んでるんです」と100%前向きに生きていたら、きっと周りからも応援してくれるような声が聞こえたのかもしれない。でもこのときは、特に落ちていて、もうどうしたらいいのかわからず、ときどき涙が出てきて止まらないことがあったりしていた。そんなときだったから、ズバリ私のの不安がに投影されたのだと思う。

これは、毒親対策に関しても同じことが言える。

人は、人を変えられない。だから、いくら変わってほしくても、いくら自分が苦心しても努力しても、毒親は変わらないのだ。自分が変えられるのは、自分のみ。自分を変えることで、自分の問題が解決し、それによって、周りが変わる。自分が変化したものが投影されて、外の変化となるからだ。

私が「同じ問題を抱える人たちへ」のところに書いた通り、「まず自分を癒してほしい」と言うのも、これがある。毒親はまず変えられないし、彼らの人生をよくするために、私たちが時間を割いたり苦心したり努力をすることはない。それよりも、まず先に自分が助かることを考えて、自分のために努力することが私たちにとって一番必要なことだと思う。自分にも他の誰にも「一番」にされたことがなかった自分を、自分が「一番」に考えて、「一番」優先してやるべきだ。

自分が癒やされることによって、変わる毒親ももちろんいるだろうし、子供の対応が変わったことで、毒気を抜かれてしまう毒親もいると思う。毒が通用しなくなるからだ。投影の考えで言えば、「最近人が変わったな」と感じたら、「自分が変わった」と考えると。毒親の毒を感じなくなることがあったら、自分が解毒した証拠かもしれない。

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毒親対策

カウンセリングを始めてすぐ、一時帰国が迫っていた。安いチケットが手に入ったので、運転免許の更新と、二人の祖母に会いに、三年半ぶりに日本へ行くことにしたのだ。

渡英してから一度だけ帰国したことがあったんだけど、そのときは実家には寄っただけで、従妹の家に泊めてもらっていた。今回は超短期だからホテルに泊まることにしたんだけど、祖母二人の家がかなり離れているので、旅程的に実家に一泊することが必要だった。ちなみに、祖父は二人とも亡くなっている。

たったの一泊だから、とにかく空っぽににこにこして、なにがあってもスルーしていればいいと思ったんだけど、顔を見たり声を聞くだけで魂を消耗する人たちと1泊過ごして、無傷で帰ってこれるとは思っていなかった。それに、万が一向こうがなにかしてきたときのために、カウンセラーに対策を聞いておきたかった。

そんな思いまでしてなぜ会いに行きたかったかというと、このときの私は祖母のことを無意味に慕っていたのだった。今でも慕っていることには間違いないけど、今ではいろんな幻想が落ち、現実的な気持ちになっている。

私の実家は、母親の生家で、母親の母である祖母と同居していた。毒家族の中で、祖母は唯一私を人間として扱ってくれていたのだと、あとになって気づいた。祖母は、一見なにも考えていないように見えるし、もうボケてるように見えるけれど、商売をやっていたこともあって、恐ろしいほどすべてのことが見えている人だ。でも、結局のところ、毒家族を押しのけて私を守ってくれるわけでもなかった。働くことだけに一生懸命で生きてきたので、そういう問題にどうしたらいいかという知識がなかったんだと思う。

父方の祖母もとても賢い人で、渡英前の最後に夫を連れて行ったとき、にこにこ笑いながらも「イギリスに行ってしまったらもう二度と会えないだろう」と思っているような雰囲気でバイバイを言われた。これがひどく心に残ってしまっていて、絶対もう一度会いに行こうと決めていた。渡英後初めて帰国したときに会いに行ったら、まさかという感じでものすごく嬉しそうにしてくれたので、遠いけれど、帰国のたびに毎回行こうと決めていた。

なので、祖母たちには会いたい。そして、親に会わずに祖母たちに会うことは無理だった。

そこで、どんな攻撃がありそうか考えてみた。例えば、きっと「まだ子供を作らないのか」とか言ってくることが容易に考えられる。日本では、誰でも結婚したら数年後に子供を持つので、孫を見たい毒親からしたら、それを武器に攻撃してくるチャンスだ。しかも、白人ハーフだ。周りに自慢できる。早くそのネタがほしい…というめちゃくちゃで他力本願な人生が、毒親思考だ。もちろん、本人たちは「そんなことない」「お前の子供なんて期待してない」と否定するけど。

「まだ子供は作らないのか」と親から言われた場合、たぶん普通の親育ちの場合は、イライラしたり怒ったりする程度だと思う。でも毒親育ちの私の場合は、心臓がキューっとなって、体が震える。可能なら、目の前の親に火をつけて燃やしてしまいたいと思う。何十年も自分の存在を無視されていいように使われてきたという毒のダメージが、これだ。

特に、毒親と離れて暮らし、普通の社会の中で普通の人間として扱われて生きていた場合、そのギャップからくるダメージは甚大だ。這い出たと思っていたのに、まだ自分はここにいたのだ、戻ってきてしまったのだと恐怖する。いつまで非人間扱いをするのだと、憎悪する。

でも、そこで自分の感情がほとばしるまま反撃しても、「なにそんな怒っちゃって」とからかわれたり、「当然だろう」とここぞとばかりによけい強く出られたりして、ますます恐怖と憎悪が広がるだけなのだ。なぜかというと、前にも「日本語カウンセリングを始める」で書いた通り、それは感情を無視されることであり、自分の存在そのものを無視されることだからだ。

そうすると、ますます相手は攻撃してくるようになる。こちらが感情的になることで、相手は「攻撃が効いている」と思うからだ。安心して、ますます撃ってくる。

でも、だからといって私が「子供作らなくてすみません」と謝る必要もない。謝ったらまたそれで、いいチャンスだからとガンガン撃ってくるようになる。

じゃあ、どうしたらいいのか。

カウンセラーは、「なかなか思う通りにならないねー」と、単に状況を描写してみたらどうか、と教えてくれた。

「子供は作らないのか」「なかなか思う通りにならないねー」
「なんで全然連絡してこないんだ」「なかなか思う通りにならないねー」
「普通は親戚のうちじゃなく、実家に泊まるだろう」「なかなか思う通りにならないねー」
「常識的に考えて、親に対してその態度はないだろう」「なかなか思う通りにならないねー」

自分の感情を返さないことで、こちらから自分を枠外に置いてしまう。そうすると自分は安全だし、相手も攻撃してくることができない。

この鎧をまとって、私は三年半ぶりに毒親と再会した。