大騒動の前夜

この年、初めてクリスマスを夫の家族と過ごすことになり、12月23日に帰国して、24日に夫のお母さんのところへ行った。

イギリスでは日本の年末年始がクリスマスに当たり、みんな実家へ行って家族で越す。ところが夫は実家が好きではなく、プレゼントを用意するのも面倒だということで、私たちは一度もクリスマスを夫の実家で過ごしたことがなかった。

義理の家族」でも書いたけれど、夫は家族のことは好きだったけれど、実家に対していい思い出がなかった。二度に渡る親の離婚やそれに付随する問題を思い出すので、なるべく行かないようにしていた。

でもこの年は「不安症の個人セッション3回目」で言われた通り、「避難生活開始」して、夫が毎週実家へ行っていたため、クリスマスに私も呼んでみんなで過ごそうということになった。プレゼントはなしということにして、お姉さん一家とお母さん、妹、そして私と夫の全員で集まろうということになった。

私はすごく迷ったけれど、妹が連絡をくれたのがとても心に残って、参加を決意した。それがすべての始まりだった。

クリスマスは、24日のイブの夕方から電車が止まり、お店も閉まり始める。25日のクリスマス当日は丸一日、電車もなにも動かない。26日もBoxing Day(ボクシング・デイ)といって、セールをするお店もあるけれど、基本的に祝日で、電車もほぼ動かない。私たちは24日の午前中に出発して、25日にみんなで集まり、年明けに帰るという予定で電車のチケットを取った。

お姉さんが焼いたビーフとポーク、お母さんが焼いたターキーは、とてもおいしかった。でもプレゼントはやらないという話だったのに、みんなはちゃんと用意していた。うちだけ日本から買ってきたお菓子のお土産だけで、かなり居心地が悪かった。ただプレゼントはすごくて、地元の養蜂のクリームや地元のスレートを使ったチーズボードをもらって、嬉しくて申し訳なかった。

ディナーの後はみんなでテレビを見たりしていたのだけれど、私は前日に日本から帰ってきたばかりで時差ぼけで眠く、8時前には「後で起こして」と夫に言いつつベッドに入ってしまい、そのまま翌日になってしまった。

26日もこの地域では交通機関が止まっているとのことで、夫とウォーキングへ出ることにした。行ってみたいところがあったし、外の空気を吸って運動してくれば、時差ボケにもいいと思ったのだ。

でも歩いていたら、だんだんと不安になってきた。夫は日本に行く前となにも変わらないし、あれだけいろいろもめたのになにも学んでくれていない様子だった。あれだけ大変だったのに、こんなにも大変な思いをしてきたのに、話をしても通じなかった。出発前に理解した「自分、相手、私たち」という概念すらもう忘れてしまっていて、絶望だった。

お母さんの家に戻り、寒くて冷えきった体を湯たんぽであたためようとベッドに入ったらそのまま寝てしまい、ご飯ができても起き上がれず、もうだめだめで寝込んだ。夜にやっと起き上がったのだけれど、お腹が空きすぎて血糖値が下がり過ぎていたのか、気を失うように床にへたり込んでしまった。

気づくと、不機嫌そうに夫がじっと見下ろしていた。見ているだけだった。恐ろしくなった。

自分の妻が床に倒れているのを見たら、普通どうするだろう。「大丈夫か?」くらい聞くと思う。びっくりして駆け寄るかもしれないし、起こしてあげようとするかもしれない。自分の妻でなかったとしても、人が倒れていたら声をかけるだろう。

でも夫はなぜかそれができなかった。私は「透明人間」だった。

夫は私から少し離れたところに座り込み、なにも言わずにじーっとこちらを見ていた。本当に怖かった。私は苦しい中でやっと、「なにをしてるの?」と言った。すると夫は怒ったように、

「そっちこそなにしてんだよ」

と言ってきた。恐怖と怒りで死ぬかと思った。

いったい、なにをしているように見えると言うのだ。こいつは本当に頭がおかしいと思った。

夫の怖いところは、まさにこれだった。見た目には人当たりがソフトで笑顔が優しく、周りからすると私のことをとても愛して大事にしているようにしか見えない。「彼はKelokoさんのこと大好きなんだね」。何度も何度も言われた言葉。

私だけが知っている。それで私だけが自分の夫にこんなことをされて、死ぬことを考えるほど傷ついて。他には誰も知らない。きっと私が本当に死んでしまっても、誰にもなにもわからない。みんな「いい旦那さんだったのにどうして」と言うのだろう。こんなにも恐ろしいことが他にあるものか。

もうこれで終わりにしようと思った。こんなにずっと傷つけられ続けて、誰もわかってくれなくて。こんなのはおかしい。普通の人と生きていきたい。普通でいいんだ。私が倒れたら「大丈夫?」と声をかけてくれる、普通の人。それだけでいい。具合を悪くして倒れているところに責められるなんてあり得ない。そんなの絶対おかしい。間違っている。

今まで表面的なことしか書かなかったSNSに、思わずこう書き込んだ。

新しい夫募集。私が具合を悪くしたら、
 そこに突っ立って見てるだけじゃなくて、ちゃんと面倒をみてくれる人」

これが騒動になった。

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