義理の家族

同居に向けて」の練習として、夫の実家に泊まりに行ってきた。

夫はお父さんが亡くなっており、お母さんとお姉さん、妹の三人が夫の家族だった。お姉さんは早くに結婚していて、お母さんは妹と二人暮らしをしている。

普通のイギリス人の家庭では、クリスマスには必ず帰省して、家族全員でプレゼントの交換をし、ローストターキーを食べて過ごす。でも夫はそういうことを一切せず、お母さんが送ってくれるプレゼントにもカードにも電話をするだけで、お返しをすることはなかった。私も対応を夫に任せていて、なにもしなかった。ただ年賀状は毎年送っていた。

出会った当初から、夫は実家と仲良くなかった。特別仲が悪いということではなかったけれど、本当に必要なときしか連絡をとったり実家に行ったりしなかった。

理由は、「あの土地に行くと落ちるから」とのことだった。

5歳のころに両親が離婚し、お母さんが再婚してイギリスに帰国。妹が生まれたものの家族は問題を抱え続け、大学生のころにお母さんはまた離婚。夫は遠くの大学へ行ったり、遠くの会社に就職したりと、常に実家から離れ続けて、最終的には日本にまでやってくることになる。

そんな様子だから、実家へ行っても日帰りや一泊だけだった。こうして週の大半を実家で過ごすようなことは前代未聞だ。そこで初めて実家と向き合い始めたようだった。

そして練習で私も行くことになった。仕事が終わった夫と合流して、長距離バスで向かった。

出発前日に高熱が出て、ボロボロのままバスに乗りやっと辿り着いたのもあった。直前のカウンセリングで夫に絶望して落ちていたこと、また応援してくれる友人のことや、ずっと家で一人で戦ってきたことなども重なったのか、着いて夫のお母さんに会ったとたん、があふれて止まらなくなってしまった。

「おかえり」とハグをして迎えてくれたお母さんがびっくりしていたけれど、もう涙で顔も見えなかった。泣きながらハグをしたまま、しばらくお母さんを離せなかった。

バスの中でもずっと、お母さんのところに行くまで頑張ろうと思っていて、行けば大丈夫だとなぜか感じていた。それを考えるだけで、バスの中でも涙が出そうだった。着いたらやはり涙が出てきてしまった。なぜだかわからないけれど、安心したのだ。

滞在中も夫と言い合いになり、二階の部屋でずっと話し合っていた。お母さんと一緒に作ろうと言っていたChristmas Pudding(クリスマスプディング)を作り始めるよと呼ばれても、ご飯に呼ばれても、下に降りて行けなかった。やっと話が終わって降りて行くと、泣いてボロボロの顔だったのに「よく眠れた?」と笑いながら言ってくれて、なにも聞かずに迎えてくれた。

ご飯を温めて出してくれ、作り始めずに待っていてくれたPuddingを一緒に作ろうと言ってくれた。日本のクリスマスケーキはいちごに生クリームのホールケーキだったり、ブッシュドノエルだったりするけれど、イギリスのPuddingはドライフルーツの蒸しケーキになる。
pudding
作るときに「願い事を言いながら混ぜると叶う」というジンクスがあるらしく、これを私にやらせようと思っていて、材料だけ用意して混ぜないで待っていてくれたのだった。

実家を出るときも、「いっぱいいっぱいになっちゃったらまたいつでもおいでね」と言って送り出してくれて、バス停まで涙が止まらなかった。一緒に暮らしている妹も、「兄じゃなくてKelokoちゃんが毎週こっちに来ればいいのに」と言ってくれた。妹もうつになったりいろいろな問題を抱えているのだけれど、だからこそ同じく問題を抱えている私の気持ちがわかるのかもしれないと思った。

お姉さんは「避難生活開始」のときに一度連絡を取ったけれど、それ以来心配してくれているようだった。このときも甥っ子たちを連れて食事に来てくれたのだけれど、そこでこっそりメッセージカードを置いていってくれた。

「To a Special Couple」
「Lots of happy times together – Today, tomorrow and forever」

ちょうど私たちの結婚記念日だった。お姉さんは今までカードなどくれたこともなかったし、会ったときもなにも話さなかったのだけれど、心配してくれているのだろうと思った。

世の中にはこういう人たちもいるのだと思った。誰もかれもが、うちの親みたいなのばかりではないのだ。話を聞いてくれる友人、心配してくれる友人、力になってくれる友人。世の中捨てたものではない、私も捨てたものではないと思った。生きていこうと思えた。

でもそこはやはり「頭のおかしい夫」が育った家だった。ちょうどこの一年後に、ここでもらったカードもなにも捨ててしまうできごとが起こる。でもこのときは本当に素晴らしい家族で、夫だけがどうにかしてしまっているのだと思っていた。

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