なにもできない夫

たぶん、ここが私の正念場だった。

周りから抹殺されようとしている自分。それに染まって自分を殺そうとしている自分。周りが言う通りに、自分を消してしまわなければならない。わかっている。でも本当にそれでいいのか。

時間が止まった。自分の中に何千人もの自分がいて、ベランダから飛ぶように叫んでいるようだった。体の中の細胞のひとつひとつが、「死んでなくならなければならない」と言っていた。もう終わりにしなければならなかった。今がそのときだった。

でもどこかになにかがあった。広い砂浜の中に、ひとつぶだけ色の違う砂粒があるように、見えないしどこにあるかもわからなかったけれど、確実にひとつぶあった。それが「自分の気持ち」だったのだ。ずっと周りの評価で自分を決めて生きてきた私が無視してきた、自分の気持ち、自分の存在だった。

そして時間が動き出した。私は飛び降りなかった。携帯を手にして、夫に電話をかけた。通じなかったので、無我夢中で出てくるすべての言葉を携帯のメッセージでぶつけた。

「お前のせいだ、お前が私を殺すんだ」
「お前が」
「お前が」
「なんで嘘をついた」
「嘘つき」
「嘘つき」
「嘘つき」
「お前が私のことを好きだなんて言わなければこんなことにならなかったのに」
「お前は私のことなんか好きでもなんでもない」
「お前はいつもなにもしない」
「なにもしないでそこにいるだけ」
「殺人者」
「嘘つき」
「それ以上なにも言うな!!!」
「言うな」「言うな」「言うな」「言うな」「言うな」「言うな」「言うな」「言うな」「言うな」「言うな」「言うな」「言うな」「言うな」「言うな」「言うな」「言うな」「言うな」「言うな」「言うな」…

メッセージを打ち続けているうちに、夫が引き返して帰ってきた。頭の中が真っ白になった。そんなことがあるとは思わなかった。

でもそれだけだった。帰ってきて、無言でただそこにいた。

私はなにも言わなかった。傷ついてるのは、。誰かにどうにかしてほしいのは、。今ここで「夫がどうしたいのか」「夫になにを言ってやればいいのか」「どうやって会話の糸口をつかんだらいいのか」をが考えなければいけないわけがない。しかも、言ってもまた責められるだけだ。だったらなおさら、私がどうにかしなければならない義務はない。

長い長い沈黙が流れた。何時間たったのか、わからない。

夫は私の周りでうろうろして、私のCBTセッションのファイルをパラパラめくったり、水を飲んだり、そこにぼーっといたりしていた。私が少し動けば、なにかが始まると思ってすかさず寄ってきたり、でも私がなにも言わないからまた黙っていたり。

こいつは本当に、私がなにもしなければなんにもできないのだと思った。泣いてる自分の妻に、をかけてやることすらできない。今までずっとこんなにも、私がなんでもどうにかしてやってきたということに気づいた。こいつこそ、ベランダから落ちて一度死んだほうがいいと思った。

私が咳き込んだらここぞとばかりに水を持ってきて、大丈夫かとやっとをかけてきた。本当に夫は物理的なものしか見えなかった。私は存在を無視されて、さらに追い詰められた。

そこから泣き叫ぶこと、数時間。壁に頭をぶつけて割ろうともした。人間というものは、悲しすぎると頭がおかしくなって、泣くとかではなく、もうその悲しい考えが出てくるをかち割って、考えを止めたくなるのだ。

夫はなにもしない。ただそこにいて、私が頭を割ろうとするのを止めたり、涙を拭いたり、気が狂ってる私を取り押さえたり。ただただ物理的に反応するだけで、「どうしたのか」も出てこなければ、うんともすんとも言わない。

そしてついには、なんと夫が泣き始めた。理解不可能だった。こいつより私のほうが数百億倍つらい。つらいのは私だ。なんでここで夫が泣いて、私がこいつの心配をしなければならないのだ。なんでいつもこいつが優先なのだ。

7年間もこんな男と一緒にいたのが信じられなかった。本気で「死んでくれ」と思った。

そこからなにを話したのかもう記憶にも記録にもないけど、最終的には次回のCBTのセッションに一緒に行くということになった。

私がなぜこうも頭がおかしくなってしまっているのかを知るために、そしてセッションでどういう問題が話し合われていて、なにが行われてるのかを知るために。私はできることをやっている。だから私じゃなくて、これをに理解してもらわないともうどうにもならないと思った。

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2件のコメント

  1. 自分も最近愛着障害という言葉を知りました。
    自分で治療を始めたところですが筆者さんはまだ相当重症なのですね。
    私も不安型の方ですが、筆者さんの書かれてる旦那様はそんなに悪くないです。
    被害妄想に何十倍も輪をかけています。

    旦那様の行動は到って普通です。
    全然おかしくない。

    あなたと同じ病気の私から見てもおかしくないのです。

    もっと旦那様を信じてあげてください。
    そしたらきっとずっと楽になります。

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    1. > めぐさん

      こちらの記事は三年前の話ですが、当時「それは普通です、信じてあげてください」と言われても解決にならなかったと思います。人間は一人一人まったく違います。されて嫌なこと、いわゆるトリガーも、人によってまったく違います。愛着障害のない人からすればまったく平気なことでも、愛着障害のある人にとっては死ぬほどつらいことがあります。そこで「こんなの普通だ」と自分に言い聞かせても解決にはなりません。カウセリングでは自分がどんなことをされるとつらいのか、それはどこから来ているのかを掘り下げていきます。人と比べてどうか、一般的にどうかではなく、自分にとってどうなのか、自分はどう感じるのかを尊重し拾い上げるところからが解決の一歩だと思います。めぐさんも誰になにを言われてもご自分が感じられることを大切にされますように。

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