ぼろぼろの体

このころ、日本語教師の学校で同級生だった三人のうちの一人が本帰国することになった。

卒業してからも仲がよく、集まれるときに集まってはたくさん話をしていた。ずっとこのままでいられないことはわかっていたけれど、ついにそのときがやってきた。なにかひとつのステップのような気がした。

仕事は好調だった。忙しくなり、自分ができることがあることに多少なりとも満足感を感じていた。上司はとても面倒見のいい人で、たくさん助けてもらった。それまで年下の人といることが多かったけれど、上司も学校の同級生も年上で、年上の人とこんなにも楽しくいられるのだなという大きな発見になった。

一方で、体調はどんどん悪くなっていった。と言っても特に頭痛や腹痛など特定の症状があるわけではなく、心身ともに疲れきっているようだった。「ふたたび指圧へ」でも書いた先生のところにまた行ってみたところ、押して痛いところがすべてストレス性だった。飛び回ってる有名人よりひどい体だと言われた。

このときも、1回では治しきれないので1〜2週間後にまた来るように言われ、確かにまだぎっくり腰の爆弾が残っている感覚が消えずにいたのでまた行ってきた。鍼を打たれて怖かったし、術後2日間ほどは行く前の倍以上の痛みがあちこちに出てひどかったけれど、がやわらかくなってびっくりした。

それまで知らなかったのだけれど、普通の人は、力を抜いていれば脚も腕と同じようにやわらかいそうだ。でも私の脚はずっと固い。パンパンになっていて、骨がないところでも固いのだ。1時間の施術が終わったあとに先生が脛を持ち上げたとき、フニャンと腕をつかんだような弾力を生まれて初めて脚から感じてびっくりした。本来ならそれくらいやわらかくなければならないのだ。

それから気をつけてみていたら、本当に常に体中にが入っていた。に力が入っていて、気づくと噛み締めていることがあるのは知っていた。もわかっていて、肩をいからせているのもわかっていた。

でもに力が入っているのはまったく気づいていなかった。骨盤の中にプラスチックが入っているように力が入っていて抜けないし、もももふくらはぎも力が入っている。私はいったい今までどうやって生きていたのだろう。恐ろしかった。

このころ三連休があったのだけれど、その間ずっと家でほぼ寝てすごした。せっかくの休みだからどこかへ行って軽くウォーキングでもして、海辺でぼんやりしたいと思っていたのだけれど、荷物をつめるどころか外に出る服を着ることさえ億劫で、三日間をほぼパジャマですごした。

それでもまだ体力が回復しなくて、三連休のあとにまた二日会社を休んで寝込んだ。そこでさすがに「おかしい」と思い始めた。

たしかに年はとってきているから、若いころのように「徹夜で飲んで次の日朝から仕事」なんてことができないのは当たり前だけれど、それにしても週末の二日間で回復できないばかりか、三連休を寝てすごしてもまだ疲れがとれないなんて絶対におかしかった。

考えてみたら、その数か月は疲れがひどいとは思っていた。寝ても寝ても寝足りないし、休んでも休んでも休み足りなかった。怖くなってきた。

心配になって、NHS(National Health Service=国民健康サービス)のWalk inセンターに行ってみた。

イギリスではすべての人がGP(General Practitioner)と呼ばれる「かかりつけ医」に登録して、なにかあるとまずそこへ行って診てもらう。そこでGPが「専門医に診てもらったほうがいい」や「レントゲンを撮る必要がある」と判断した場合、病院の該当箇所へ回してもらえる。

なので、なにかあったらまずGPの予約を取ることになる。でも緊急の場合や予約なしで診てもらいたい場合、「Walk in(飛び入り)センター」を持つ病院へ行くと、緊急性によって長時間の待ちはあれど、その日に診てもらうことができる。

でもそこでは医者に会うことはできず、看護師による血圧の測定だけで終わってしまった。どれも異常はなく、看護師の自分にできるのはこれだけだからと、GPで診てもらうように言われた。このときGPの予約もしてはいたのだけれど、仕事をそれほど休まずにいける早朝や夕方の時間帯はずっと空いておらず、かなり先の予約しか取れなかったのだ。

それでも早く病院に行きたいと思ったのは、疲れのほかにもいくつか目立つ障害があったからだ。

ひとつは、が回らなくなることがよくあるようになってきていた。言いたいことはあるのに口が回らず言えなかったり、まったく意味のない言葉が出てきてしまったりして、ショックを受けていた。

また、日常でいつも使っている簡単な単語がまったく出てこなくなってきていた。夫にお茶をいれてもらうのに、どのお茶がいいか聞かれても「ダージリン」が出てこなかった。それどころか、頭の中には「G、G…」としか出てこなかった。「ダージリン」は「Darjeeling」だから、「G」ではなく「D」だ。

さらには、朝に起き上がれないこともそうだけれど、がむくんで指輪が入らなくなってきていた。太ったわけでもなく、前日に飲みすぎたわけでもなかった。今までにも入りにくいことはあったけれど、まったく入らなくなるほど指がむくむのはショックだった。靴はいつもサイズが大きめのをはくからわからないけれど、足ももしかしたらむくんでいるのかもしれないと思った。

これがすべて精神的なものからきているのだとしたら、相当だと思った。早くGPに会ってどうにか解決策を探りたいと思った。

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