呪いの首飾り

夫が書いてくれた手紙」を出そうかどうしようかと迷っていたとき、父親からもらったオープンハートの金のネックレスと、母親からもらった真珠のネックレスがあることを思い出した。

これも一緒に送り返そうかと考えた。

とりあえず、家にあると気持ち悪いから、どうにかしたいと思った。

①そのままブツのみ送り返す
②夫の手紙をつけて送り返す
③売る

どれがいいだろうと、考えた。

もともとどちらも、私の意思とは関係なく勝手に贈られたものだった。

金のネックレスのほうは、12歳のときに誕生日でもなんでもないのに突然父親が買ってきた。私は金が好きではなかったので、「高いものだ」と言われても特に重要視していなかった。なくしてだいぶ経ったころに洗濯機の排水口から出てきて、母親が「お父さんにひどいよ」と言ってきたけれど、勝手に寄こしておいて大事にしろと要求されても、ペットに自分のやりたいものを勝手にやっても感謝されないのと同じで、大事になどするわけがなかった。

真珠のネックレスのほうは、結婚の前に母親から押しつけられた。アコヤ真珠で、鑑定書付きだった。あとで知った話、日本ではお葬式のときに黒いワンピースと真珠のネックレスが定番らしく、大人はみんな真珠を持っているらしい。でも、社会人になったころに冠婚葬祭用に一生着れる黒いパンツスーツを買った私には、使えないしろものだった。結婚の写真を撮ったときに一度使ったけれど、あとはずっとしまいっぱなしだった。

二人とも、まさに「ペットに好きなものをやる」感覚だ。私の好みやほしいもの、必要なものは、一切関係がない。自分が買ってやりたいものを勝手にやって、大事にされないと勝手に文句を言う。私は、動く着せ替え人形だった。

とにかくもう二人のことが気持ち悪くてしかたがなかったので、この二人からもらった呪われたものを持っていることが気持ち悪く、どうにかしたかった。

チャリティショップへ持って行こうかとも思ったけれど、近所でこの呪いの首飾りが出回ると思うと安心できなかった。夫の母へ贈ろうかとも思ったけれど、呪いが自分の身近に居続けられるのも怖かった。③の「売る」だと、売って入ってきたお金も呪われていそうで嫌だなと思った。なので、最初は①か②で迷っていた。

でも、時間をかけていろいろと悩んだ末に、「フェードアウトが一番かもしれない」という結論に達した。

従妹とも相談した結果、こちらがなんの反応も返さないことが、毒親に一番ダメージを与えるだろうと思った。実家でも、私が黙っていたらビクビクして機嫌を取ろうとしてきたけれど、私が怒りを抑えられずになにかを言い始めれば、思い出すだけで鉄パイプで殴りつけたくなるような、私の人権を無視した行動を取っていたのは、「父方の祖母のところへ」でも書いた通りだ。

それよりもなによりも、もう「不可能だ」という感覚が強かった。あの完全にコミュニケーションが図れない人たちをどうにかすることは、もう完全に不可能なのだと。私ができることは、もう二度と関わらないことだった。

さっそくロンドンの貴金属街を調べて出かけたところ、喪服に真珠というのは日本独特の風習なので、まるで需要がないようだった。真珠を扱う店自体も少なく、何軒も回ったけれどだめだった。ようやく、貴金属ではなくこういった石を専門に扱ったお店があったので、そこで聞いてみたところ、売った場合は300ポンド(約5万円)くらいだろうとのことだった。

ネットで見たところ、日本ではだいたい15〜20万円するようだった。馬鹿だと思った。

週末は真珠担当の人が店にいないとのことで、金のネックレスのほうだけ売った。60ポンド(約1万円)だった。後日また真珠のネックレスを持っていったところ、ストックがありすぎて買い取れないとのことだった。

60ポンドは、その帰り道に、レ・ミゼラブルの映画を無駄に一番高い席で観ることで使った。なにか残るものや、口に入るものを買うより、その場ですぐなくなるものがいいと思った。

このネックレスを売った日は、本当にひどかった。

ロンドンを歩いていて、何度も人にぶつかられ、足を踏まれたりした。普通に町を歩いていて足を踏まれるとは、いったいどういうことだろうと思った。さらには映画館でも、後ろの席の人が途中で立ち上がり、出て行く際にコートのボタンで頭を強打された。その後、週明けから喉が痛くなってきて、夜には熱が出始め、熱が二日も続き、会社を休んだ。

完全に呪いだと思った。私がネックレスを売ることを許さない、毒親の怨念だと思った。

一刻も早く、残った10ポンドも使ってしまわなければと思った。お昼代にでもしようか、いやでもお腹に入るのは怖いと、悩みに悩んでいたところ、福島出身の友人が声をかけてくれて、震災へ寄付させてもらえた。呪われたお金が、なんだか浄化されたような気持ちになって、このときは心底ほっとした。

真珠のほうは残ったけれど、また日本へ行くときに日本で売ろうということになった。怨念は身に受けたものの、とりいそぎ片方だけでも処理することができて、少しほっとした。

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