祖母のいない実家

やっと「祖母の帰宅」があったのに、祖母は一泊しか一緒にいられず、翌日には施設へ送って行くことになった。

そこでも毒父は、祖母に二度、施設の人にも一度、「本当は明後日まで施設にいる予定だったんだけど、娘が来たから俺が頼んで一泊させたんです」と、また書いて練習したような長文を滑舌よく言っていた。

このときはもう、体中の血が沸騰して、指は震えてくるし、どうして私がこんな目にあわされるのかわからず、本当に憤死するかと思った。どこをどうしたらそんなに都合よく記憶をすり替えられるのか、まったくわからなかった。祖母が乗っていた車椅子を、後ろから投げつけてやりたかった。

このころには、もう毒親二人の周りを黒い影がもうもうと囲んでいるのが見えて、近寄れなくなっていた。腐臭がただよっていて、万が一その陰気な影に触れたら腐りそうだった。目はただれてぶら下がり、顔はぐちゃぐちゃにつぶれているように見えた。恐ろしかった。

毒親二人は、ピリピリしていた。前年と違い、私が思うように振る舞ってくれないからだ。それを「親不孝」「感謝がない」という言葉で片づけて私のせいにすることで、自分たちを保とうとしていた。救いようが皆無だった。

祖母がいなくなった実家は、またガラリと雰囲気が変わった。人も少なくなって、部屋がとても大きく感じた。

私たちは祖母と遅い朝食を食べたので、お昼になってもお腹は空いていなかった。リビングのこたつでみんなでテレビを見ていると、そこに毒母がやってきて、こたつのものをのけて狭いところに入り込んできて、自分と父親の分と、ラーメンを二つ置いた。

食事は台所でするのに、なんでわざわざこんな狭いところへ持ってきて食べるんだろうと思っていた。父親も、「なんでこっちで食べるんだ?(台所で食べないんだ?)」と聞いたほどだ。すると毒母は、

「こっちで見せびらかしながら食べようと思って」

と言って、「あーおいしい」とズルズル食べ始めた。

イギリスに住む私の前で日本のラーメンを食べて、見せびらかしたかったのだと。いったい、この人は何歳なのだろう。「あーいいなー!ずるーい!」とでも言ってほしいのだろうか。そんなことが、本当に楽しいのだろうか。

こんな稚拙な女に「育てられた」ということが、今だに信じられない。こんな女が、子育てなどできるのだろうか。いや、できなかったからこそ、今の私がこうなっているわけだった。それにしても、あまりの衝撃に目眩がする。

それでも、以前はそんなものだと思っていたことが、気持ちが悪くなるほどおかしいことだということがわかってきたというのは、進歩をしている証拠だった。この家を出て十数年、普通の人たちに囲まれて生きてきて、普通の感覚が身についてきたのだ。やはり、「逃れる」ということは大事なことだと思った。

私が実家を出てから、毒家族はを飼い始めた。その犬は、このときなんとにかかっていた。

老齢であったこともあるけれど、もしかしてストレスだったのではないかと思った。あの家にいて、父母妹の毒家族三人のどす黒い腐った空気にやられたのでは。

私がいたときは、毒家族三人ですべての嫌なことを私のせいにして自分たちの平和を保っていたが、私が自立したとたん、三人で撃ち合いが始まった。父親の浮気疑惑に、妹のパラサイト問題も加わって、それまでは言わなくてもお互いでカバーしあって仲良しこよしでやってきた母親は、文句があっても本人に直接言えず、姉弟の家にやってきては愚痴をこぼしていたそうだ。

それは大変ザマーミロだったが、私の自立と同時に飼い始められたこの犬は、そのヘドロを一気にかぶったことだろう。というより、そのヘドロをかぶせるために飼い始めたというのが本当のところだろう。私が自立してなくなったはけ口を、犬を飼うことでまぎらわせようとしたのではないか。

昔は元気に庭を駆けまわっていたが、このときは身動きもとれず、家の中の布団でごほごほと肺から直接出てくるような変な咳をし続けていた。怖かった。

犬に近づくたびに毒父は、犬が横になって変な体勢になっているのを、両足をそろえてまっすぐにして、なでてやっていた。それでもまた変な体勢になって、またしばらくするとやってきてまっすぐにして、「お前はかわいいな」「本当にかわいそうだ」となでてやっていた。

でも、顔がにこにこしていて嬉しそうなのが、本当に気持ち悪かった。本当に犬の気持ちがわかっているとは思えなかった。「世話してやってる」自分に、酔っていたのだろうか。

変な体勢になってしまうのは、それがラクだからだ。なのに、なにも考えず、それを見た目よくまっすぐに直し続ける。犬にとって「なにがいいか」は、まったく頭にない。自分がしたいように、したいことを勝手にするだけ。夫も、「Kelokoのお父さんおかしいよな、犬のとこやってきてまっすぐに直して、またやってきてはまっすぐにして、笑っちゃう」と言っていた。まったく無駄なことをしていると思ったのだろう。

そんなところに十数年もいたら、病気になっても当然だ。口がきける人間の私だって、頭がおかしくなった。なにもできない犬だったら、なおさらだろう。本当に、あそこを出てよかった。

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

w

%s と連携中

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください