人前で話す

引き継ぎも終わり、通常運転の日々が始まったところで、突如として問題が持ち上がってきた。

勤め始めた会社は金融系だったため、会社の業務上の規則がものすごく厳しかった。その規則の管理を担当していたのが私の入った部署で、新しく入社した社員に対して、規則に関する新人研修を行っていて、私も受けた。この研修を私の前任者が担当していたため、次から私が新人研修をしなければならないと聞かされた。

私は、人の前で話すことが苦手で、プレゼンのようなことが大の苦手だった。

いつからそうなったのかは、わからない。小学校や中学校では、学級委員などもやっていて、わりと人の前でなにかをすることが大丈夫な人間だと思っていた。でも、実際はそうではなかった。学力の高い高校へ入って自信もなくなり、大学のような大人数が集まるところを経て、本来の自分はそう強い人間ではないのだと感じるようになっていた。

社会人になって最初こそは営業職だったものの、向いていないと感じて辞め、それからは事務で会社を支えるポジションをするようになり、これが合っていると感じるようになった。営業などで人と会い、その場の瞬発力で勝負するよりも、緻密な準備と計画で周りの動きをサポートするほうが、自分にとっても居心地もよかった。

日本語教師をしていたときにも、痛切に感じた。「次のつまづき」でも書いた通り、生徒のことを気にしすぎてだめになった。90分の授業中、自分が止まれば、すべてが止まってしまうのだ。それも、ものすごいプレッシャーだった。

話すことよりも、聞くほうが得意だということもわかってきた。自分の話をすることになると、人が興味を持って聞いてくれるとは到底思えず、どうしてもおざなりになってしまい、すぐくじけた。ところが、質問をたくさんして、相手の話を聞くことはとても得意だった。これだと何時間でもできたし、自分も安心していられた。

なので、そんな人の研修をするような業務があると聞いて、愕然とした。だいたい、あんな安月給でそんな業務が入っているなど、思いもしていなかったのだ。

そこで、すぐ上司に話した。単に「やりたくない」とか「嫌いな業務」ということではなくて、恐怖を感じるほどのものだったし、これが明記されていたら絶対に契約しなかったこと、社員など毎日入ってくるわけではないだろうから、私のいる1年くらい他の人に担当してもらいたいということを話した。

長い話し合いの末、上司は理解してくれた。面倒をかけて申し訳ない気持ちはものすごくあったけれど、でもこれは理解してもらわないといけないことだった。嫌だと思って、契約を切ってしまうことはできる。3か月の試用期間の間は、2週間前の通知で(「久しぶりの就職活動」参照)契約を切ることができた。でも、続けたいと思ったから、話してみようと思ったのだ。そこを理解してくれたんだと思う。

でも、全面免除にはならなかった。規則を勉強していく中で、人の補助を受けながら、最終的にはできるようにしていこう、というような形になった。

「苦手なものは克服しなければならない」。これは、非常に古い日本的な考えかただと思う。

この会社もそうだったけれど、社員にはいろいろな部署を経験させて、会社のすべてを覚えこませることが、出世につながるという考えかたがある。いわゆる、「ゼネラリスト」というやつだ。学校でも、できない教科も勉強してできるようにして、すべての教科でいい点を目指すことが求められる。

でも、この世のすべての人間が、同じものを同じようにできるようになるということはあり得ない。数学が得意な人もいれば、音楽が得意な人もいる。すべての人間が、すべての教科で、同じようにいい点を取るということは不可能だし、それを目指すことに意味もない。

会社も同じで、営業が得意な人は、事務は他の人に任せておけばいい。両方得意だという人がいたら、好きなほうをやってもらってもいいし、両方やってもらってもいい。会社は、仕事を用意してそこに人を当てはめるのではなく、に合わせて仕事を振り分ければいい。それが人材マネジメントだ。

人には、向き不向きや、得意不得意がある。不得意なことをやらされるときよりも、得意なことをやるほうが何十倍も力が出せる。それを考えてうまく配置することで、個人の最大の成果を引き出し、会社の最大の成果につなげる。

サッカーだって、そうだと思う。攻撃や得意な人や防御が得意な人がいて、それをうまく配置して試合に勝つ。防御が得意な人に、攻撃もできるようになれとは言わない。もちろん、なんでもできたらそれはそれでいい。でも、選手にも個性があって、得意なものを最大限に活かせるようなポジションへつける。それが全体の成果を最大にするからだ。

私は人前で話すことが不得意だし、そこにはいろいろな原因があるんだけれど、はそれでいい。以前に得意だったこともあったし、今後また得意になることがないとは限らない。無理をして変えることなく、今の自分を受け入れて、今の自分が得意なことをやっていく。ただそれでいいのだ。

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