毒親対策

カウンセリングを始めてすぐ、一時帰国が迫っていた。安いチケットが手に入ったので、運転免許の更新と、二人の祖母に会いに、三年半ぶりに日本へ行くことにしたのだ。

渡英してから一度だけ帰国したことがあったんだけど、そのときは実家には寄っただけで、従妹の家に泊めてもらっていた。今回は超短期だからホテルに泊まることにしたんだけど、祖母二人の家がかなり離れているので、旅程的に実家に一泊することが必要だった。ちなみに、祖父は二人とも亡くなっている。

たったの一泊だから、とにかく空っぽににこにこして、なにがあってもスルーしていればいいと思ったんだけど、顔を見たり声を聞くだけで魂を消耗する人たちと1泊過ごして、無傷で帰ってこれるとは思っていなかった。それに、万が一向こうがなにかしてきたときのために、カウンセラーに対策を聞いておきたかった。

そんな思いまでしてなぜ会いに行きたかったかというと、このときの私は祖母のことを無意味に慕っていたのだった。今でも慕っていることには間違いないけど、今ではいろんな幻想が落ち、現実的な気持ちになっている。

私の実家は、母親の生家で、母親の母である祖母と同居していた。毒家族の中で、祖母は唯一私を人間として扱ってくれていたのだと、あとになって気づいた。祖母は、一見なにも考えていないように見えるし、もうボケてるように見えるけれど、商売をやっていたこともあって、恐ろしいほどすべてのことが見えている人だ。でも、結局のところ、毒家族を押しのけて私を守ってくれるわけでもなかった。働くことだけに一生懸命で生きてきたので、そういう問題にどうしたらいいかという知識がなかったんだと思う。

父方の祖母もとても賢い人で、渡英前の最後に夫を連れて行ったとき、にこにこ笑いながらも「イギリスに行ってしまったらもう二度と会えないだろう」と思っているような雰囲気でバイバイを言われた。これがひどく心に残ってしまっていて、絶対もう一度会いに行こうと決めていた。渡英後初めて帰国したときに会いに行ったら、まさかという感じでものすごく嬉しそうにしてくれたので、遠いけれど、帰国のたびに毎回行こうと決めていた。

なので、祖母たちには会いたい。そして、親に会わずに祖母たちに会うことは無理だった。

そこで、どんな攻撃がありそうか考えてみた。例えば、きっと「まだ子供を作らないのか」とか言ってくることが容易に考えられる。日本では、誰でも結婚したら数年後に子供を持つので、孫を見たい毒親からしたら、それを武器に攻撃してくるチャンスだ。しかも、白人ハーフだ。周りに自慢できる。早くそのネタがほしい…というめちゃくちゃで他力本願な人生が、毒親思考だ。もちろん、本人たちは「そんなことない」「お前の子供なんて期待してない」と否定するけど。

「まだ子供は作らないのか」と親から言われた場合、たぶん普通の親育ちの場合は、イライラしたり怒ったりする程度だと思う。でも毒親育ちの私の場合は、心臓がキューっとなって、体が震える。可能なら、目の前の親に火をつけて燃やしてしまいたいと思う。何十年も自分の存在を無視されていいように使われてきたという毒のダメージが、これだ。

特に、毒親と離れて暮らし、普通の社会の中で普通の人間として扱われて生きていた場合、そのギャップからくるダメージは甚大だ。這い出たと思っていたのに、まだ自分はここにいたのだ、戻ってきてしまったのだと恐怖する。いつまで非人間扱いをするのだと、憎悪する。

でも、そこで自分の感情がほとばしるまま反撃しても、「なにそんな怒っちゃって」とからかわれたり、「当然だろう」とここぞとばかりによけい強く出られたりして、ますます恐怖と憎悪が広がるだけなのだ。なぜかというと、前にも「日本語カウンセリングを始める」で書いた通り、それは感情を無視されることであり、自分の存在そのものを無視されることだからだ。

そうすると、ますます相手は攻撃してくるようになる。こちらが感情的になることで、相手は「攻撃が効いている」と思うからだ。安心して、ますます撃ってくる。

でも、だからといって私が「子供作らなくてすみません」と謝る必要もない。謝ったらまたそれで、いいチャンスだからとガンガン撃ってくるようになる。

じゃあ、どうしたらいいのか。

カウンセラーは、「なかなか思う通りにならないねー」と、単に状況を描写してみたらどうか、と教えてくれた。

「子供は作らないのか」「なかなか思う通りにならないねー」
「なんで全然連絡してこないんだ」「なかなか思う通りにならないねー」
「普通は親戚のうちじゃなく、実家に泊まるだろう」「なかなか思う通りにならないねー」
「常識的に考えて、親に対してその態度はないだろう」「なかなか思う通りにならないねー」

自分の感情を返さないことで、こちらから自分を枠外に置いてしまう。そうすると自分は安全だし、相手も攻撃してくることができない。

この鎧をまとって、私は三年半ぶりに毒親と再会した。

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